PR会社は、クライアントの求めに応じてPR戦略を立案し、その戦略に基づいた企画を実行することを生業としている。この戦略立案の起点として「よりリアルなターゲット像」を把握することが重要である。
性別・年代別のメディア接触に関する調査については多様な機関が実施しており、結果が公表されている。こうした定量調査は戦略や企画を考える上で非常に参考になる。しかしその一方で、定量調査では具体的な個人を想像させるような「ペルソナ像」がなかなか浮かびづらいという欠点もある。
そこで我々デジタルPR研究所では、性別・年代・ライフステージ別にセグメントしたターゲット層に1対1のヒアリング調査を行い、リアルな声に基づいた「ペルソナ像」をあぶり出す活動を行っている。今回はこの中で「都市部の働く30-40代女性」の調査結果の一部を切り出し、年代とライフステージによって起こる女性のメディア接触の変化を紹介する。
■調査方法
今回は、1都3県に住む30代から40代の女性有職者20名に対し、弊研究所の研究員が1対1で面談し、下記の4分野について直接口頭で質問した。
- 職業や家族構成(独身、DINKS、子育て世帯など)の属性情報
- SNSの利用状況(Facebook, Twitter, LINE, Instagramにいつ・どの程度・どのような目的で接触するか)
- ネットメディアの閲覧状況(アプリ/ブラウザなどでいつ・どの程度・どのような目的で接触するか)
- マスメディアへの接触状況(テレビのニュースや情報番組、新聞、雑誌など)
■発見1:年代によって活用方法が異なるFacebookとInstagram
SNSに関しては、全体的な傾向として、LINEは回答者全員が多かれ少なかれ使用しており、使い方も「家族や知人とのコミュニケーション」とあまり違いがなかった。またTwitterは「毎日くだらない愚痴やドラマの感想を投稿している」(30代ママ・マスコミ)という1名を除き、大多数がアカウントを持っていないもしくは見る専ユーザーという回答であった。
これに対し、年代によって差が出たのはFacebookとInstagram。どちらも利用率は高いが、使い方は年代ごとに大きな違いが見られた。
40代はFacebookを支持する声が多く「(Facebookを)自分がフォローしている100以上のメディアの記事を読むためのキュレーションメディアとして利用」(40代ママ・翻訳家)するようなヘビーユーザーもいた。一方で30代のFacebook利用は、ときどきアプリを開いて友人の現状を確認する程度の人が多く、発信する情報は「転職や新年の挨拶といった、友達に一斉に報告したいこと」(30代独身・秘書)に限られているケースがほとんどであった。
一方でInstagramは30代に支持されており「Instagramを『子育て日記』として活用し、子供の動画や写真を頻繁にアップしている」(30代ママ・マスコミ)といった声や、「気に入ったファッションやグルメ情報は、見知らぬ他人であっても頻繁に『いいね』する」(30代独身・アパレル)といった回答があった。一方、40代は「Instagramは昨年登録したがもう使わなくなった」(40代DINKS・広告)「見る専なので、フォロワーはいない」(40代独身・マスコミ)など、今回のヒアリングでは、自身でも投稿するという40代女性は皆無であった。ただし最近は50代以上のインスタグラム利用者が増えているというニュースもあり、今後はこの傾向にも変化が見られるかもしれない。
■発見2:ママはテレビに接触するも消費行動にはつながらない
今回の調査結果から、女性のメディア接触状況は「子供の有無」により大きく違ってくることが明らかになった。特に小さいお子さんをお持ちのママからは「テレビがついてる時間は1日に5時間程度だが、流しているのはほぼアニメだけ」(30代ママ・事務職)という回答もあり、情報収拾という狭義な意味でのメディア接触という点において、テレビは(特に小さいお子さんのいる)ママにはあまり機能していない印象を受けた。
ではママはどこから情報を得ているのかという疑問が湧いてくるが、子育てや教育関係の情報はママ専用のニュースサイトや教育関係の掲示板を参考にするという回答が見られた。具体的には、「子育ての相談用サイトとしてママリを見る」(30代ママ・広告)「子供の塾などの情報については、InterEduで調べる」(40代ママ・ライター)などの声があった。またそういった検索行為も「子供を寝かしつけた後」(40代ママ・翻訳家)に調べるなど、時間をやりくりしている様子が伺えた。
このように、ママの多くが閲覧しているサイトは、自分自身の興味関心よりも家族(特に子供)に関する情報収拾目的が多く、その情報も専門サイトで手短に得るか、掲示板で他の人の意見を参考にしながら、とにかく時短に努めている傾向が見て取れた。
■発見3:40代の独身/DINKS女性は、情報収拾に熱心
「働く独身女性」「DINKS女性」は先述の「働くママ」と比較すると、メディア(特にマスメディア)への接触時間も長く、特に40代でその傾向は高く表れた。
40代のテレビへの接触については「毎日2時間程度。見る番組は特に決めていない。その時の気分で」(40代独身・アパレル)といった「ダラダラ派」もいたが、「お気に入りの韓流ドラマを録画して見る」(40代独身・大学教授)や「録画したバラエティ番組を、CMを飛ばしながら1日5時間くらい見る」(40代独身・PR会社)という能動的な回答もあった。一方、30代では録画した番組を見るなどの「能動的なテレビ接触派」は一人もおらず、逆に「情報はネットで見られるので、テレビは持っていない」(30代独身・秘書)といった声すらあった。
新聞や雑誌の購読率も、働く独身女性やDINKS女性では高い傾向にあった。「定期購読している新聞を毎朝読んでいる」(40代独身・アパレル)や「自宅でのリラックス用にHERSを毎月購入して読んでいる」(40代独身・大学教授)、「経済に興味はないが、夫が購読している日経の日曜版だけは読む」(40代DINKS・自営業)などといった「紙媒体を購読して読んでいる」という回答は40代に顕著であった。30代で雑誌を読んでいると回答した人は1名しかおらず、しかも「AERAはときどき購入するが、ファッション系の情報は楽天マガジンで」(30代ママ・広告)といった具合で、うまく使い分けていた。
なお、40代の一部には「老眼がきつくなってきたから、スマホは極力見ない」という人がいた。こうした加齢による身体的な変化も、ネットのみならずテレビや雑誌、新聞など多角的に情報収拾を行う原因の一つかもしれないことを付記しておく。
■発見4:結婚後のメディア接触は夫の影響で変化も
このように、情報取得に熱心な「働く独身女性」および「DINKS女性」であるが、彼女たちの違いは(当然ではあるが)夫の影響力の有無である。特にマスメディアへの接触で、その傾向は顕著であった。
例えば「朝のテレビは夫の好みでいつも『とくダネ』。私は本当は別の番組(録画番組含む)を見たいと思っているが、私にチャンネル選択権はない」(40代DINKS・自営業)といった声や「夫が買ってくる『山と渓谷』をなんとなく自分も読むようになっている」(40代DINKS・広告)など、配偶者の趣味に影響されていると思われる回答が見られた。働くママも「夜は夫に付き合って『報道ステーション』を見ることが多い」(40代ママ・ライター)というように、その短いメディア接触時間やコンテンツを夫の趣向に影響されている様子が伺える。
ただし、30代のママやDINKS女性からはこのような夫の影響力が推測される回答は少なかった。30代女性は夫の影響を本当に受けていないのか、それとも無自覚なだけなのかは今回のヒアリングだけでは判断できないが、このような違いは婚姻期間の長さや年代による男女関係の違いが影響しているのかもしれない。今後はこうした傾向の違いについても、もう少し広い年代でヒアリングするなどして調べていきたいと考えている。