デジタルPR研究所 所長 渡辺幸光

デジタルPR研究所(以下、idpr)が設立された2017年当時、世間では「インスタ映え」という言葉に代表されるように、SNSがこの世の春を謳歌していました。Twitterの国内ユーザー数は4,500万を超え、TopユーチューバーがTVCMにまで登場するようになり、そして新しいSNSとしてTiktokが若者に浸透しはじめていたのもこの頃でした。

そこからたった6年足らずで、世の中は大きく変化しました。Facebook社はフェイクニュース対応に翻弄され、その名をMetaに変えました。Twitterもサービスが大変革を迎えており、Tiktokはアメリカでの利用が禁止される可能性まで取り沙汰されています。我々の未来を明るく照らし続けると思われていたSNSは短期間に多くの課題を抱え、ソーシャルメディアを取り巻く環境は10年も経たずに大きな岐路に立たされています。

一方で、2022年以降、ChatGPTをはじめとする生成系AIの話題が非常に多く語られるようになりました。文字通り「業務の自動化」がすぐそこまでやってきたとワクワクする反面、機密情報の漏洩や知的財産権侵害といったリスクが解決していないなど、技術の進歩に法律が追いつかないといった懸念も指摘されています。同時にこの急激なテクノロジーの進化は(少なくとも一部の)人々の心に恐怖に近い感情を芽生えさせており、デジタル化による明るい未来を無邪気に想像することが、以前にも増して難しくなっているように感じています。

デジタルメディアの「現在」を理解し、「未来」のコミュニケーションのあり方を探る目的で6年前に設立されたidprは「テクノロジーがメディアのあり方を変え、人々の行動を変え、さらに新しいテクノロジーの萌芽に繋がっていく」という理解に基づいて活動してきました。しかしChatGPTをはじめとする生成系AIは(いわゆる既存の)メディアを介さずに人々の行動を変えることを可能にしてしまいました。

この「メディアの中抜き」とも言える状況は、これまで50年以上にわたってブランドとターゲットとメディアの間により良い関係を作り続けてきたプラップグループにとっても大きなチャレンジを意味します。我々idprも、デジタルメディアだけでなくデジタルテクノロジー全体の進化がもたらす影響を見据えながら研究開発を行わないと、コミュニケーションの未来を考察することなどできない状況になったと考えるに至りました。

こうした厳しい現実を前に、コミュニケーション・コンサルティング・カンパニーを標榜するプラップグループはいったい何ができるのか。

この問いに対するひとつの答えとして「日々変化を続けるデジタルテクノロジーを正しく理解し、活用することで、生活者・メディア・ブランドそれぞれにとって “三方良し”の関係作りを今後も推進していきたい」という考えに行き着きました。まずは「広報にとってリスクの少ないAIツール」の開発を目指し、テクノロジーと広報が共存共栄する明るい未来を照らす道しるべとして、一歩一歩着実に・そして大胆に進んでいきたいと考えています。

2023年6月5日

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