日本のデジタルメディアは現在活況を呈しているが、その歴史はまだまだ浅く、その誕生からまだ20余年しか経っていない。しかしその20年ほどの短い期間に、なんと3回もの世代交代が起きている。そしてその世代交代には、テクノロジーの進歩が大きく関係していた。今回は、その「デジタルメディア興亡史」を簡潔にまとめてみる。

第一世代:テキスト時代(1995-2002)

Windows95が日本で発売されたのが1995年11月なのだが、その5ヶ月前にあたる1995年6月に開設されたYOMIURI ONLINEが、日本初のニュースサイトである。その2ヶ月後にasahi.comとJAMJAM(毎日新聞のニュースサイト)が開設され、日本のデジタルメディアは新聞社主導でそのスタートを切った。翌年(1996年)以降、Yahoo! Japanをはじめとする大手ポータルサイトが相次いで開設されるとともに、PC Watchなどの老舗ITメディアも産声をあげ、C-Net、ZDNet、WIREDなどの海外メディアも次々に上陸した。また2ちゃんねるや@コスメなどの巨大BBSが生まれたのも、この時代である。ネットが普及し始めた20年前というのは回線がとても遅くて、写真や画像が上の方から徐々に表示されるような状況だったため、文字情報中心のWebサイトしか構築できなかった。また更新作業も直接HTMLを触らないとできない状況であったため、情報発信はもちろん受信するのもハードルは比較的高い状況にあった。

 

第二世代:ミドルメディア時代(2003-2009)

このような受信環境は、回線のブロードバンド化により大きく変化した。特に2001年にYahoo!BBが受信に必要なルーターを無料で配布したことで都市部を中心にブロードバンド環境が整い、普及が一気に進んだ。また時を同じくして「はてな」「mixi」「アメーバ」といったブログのプラットフォーマーが多数登場することで、いわゆる「Web 2.0」と呼ばれる個人が簡単にメディアを作れる環境も整った。

この2つの進化は、デジタルメディアを取り巻く環境にも大きな変化をもたらした。顕著な変化は、GIGAZINEやロケットニュース24のような、ニュースというよりネタやガジェットの情報を扱う「ブログっぽいメディア」が一気に増えたことである。これらのメディア(の一部)は、マスと個人の間に位置する情報発信媒体ということで「ミドルメディア」と呼ばれ、多くのアクセスを稼ぐ存在となり、メディアとしての存在感を高めた。これらの媒体は、既存のマスメディアとはあまり関係のない、個人やIT企業などによって立ち上げられたものも多かった。

この時代は、マスメディアのデジタル進出という点では、ビジネス系を中心とした雑誌社の参入が増えた時期でもある。ポータルサイトでは、Livedoorやマイナビなど「他社から配信も受けつつ、自社でも記事を書く」という新しいタイプのものが増えてきたのもこの時期である。

 

第三世代:キュレーション時代(2010-2017)

2008年は、Twitter、Facebookという2大SNSプラットフォームが上陸し、またiPhone3Gも発売を開始したエポックメイキングな年である。この「ソーシャルメディア+スマホ」という環境の変化は、ほどなくして(また)デジタルメディアに大きな変化をもたらすことになった。

最初の変化は「まとめサイト」の登場である。個人ブログやTwitterアカウントなど、広義な意味でのメディアの爆発的な増加により、情報収集に時間がかかってしまう問題への対応策として「Naverまとめ」などの媒体が登場した。これらの「ざっくりまとめると〜」的な視点は、スマホの小さな画面でも読みやすかったこともあり、一気に人気サイトに成長した。

さらにその後、Gunosyやスマートニュースといった「アルゴリズムで話題のニュースをまとめてくれるアプリ」が人気を集め、さらにクラウドソーシングを活用して安価な記事を大量に書かせるキュレーションメディアが、その立ち上げの容易さ・コスト負担の少なさを理由に多数登場した。またソーシャルメディアで拡散しやすいバズワードを多数含んだ「バイラルメディア」もアメリカから上陸し、日本で独自の進化(というかある意味退化)を遂げた。

これらのサイトの多くは、検索エンジンやソーシャルメディアを通じた誘導に力を入れすぎて、記事の内容にはほとんど注力しなかったこともあり、質の低い記事を大量生産し、結果的に世間や検索エンジンからBANされるという事態を招いた(いわゆるWELQ騒動)。この結果、キュレーションメディアの隆盛は2016年末以降、一気に収束してしまった。

 

図:代表的なデジタルメディアの開始時期を表した年表

 

2017年以降のデジタルメディアの行方

そんなわけでキュレーションメディアが自爆してしまった結果、今はおそらく第四世代に入っているのだと思われる。第四世代を迎えるまでに大きく進化した技術には、AR/VR技術の大幅な発展やウェアラブル端末やスマートスピーカーの登場などいくつかあるが、メディアの進化という視点では「OOHで接続可能な無線の高速化」が大きな影響を及ぼすのではないかと考えている。

例えば3G時代は電車の中で動画を見るのが難しかったが、今は普通に見られるようになった。その結果を受けて、C Channelやクラシル、Delish Kitchenなどのショート動画メディア/アプリが人気を博している。インスタグラムをはじめとするSNSプラットフォームも動画対応が進み、「MINE」や「ルトロン」など高品質な動画を短期間で掲載するサイトも増えている。ただしまだこれといったメジャーなサイトが登場していないことからも、この覇権争いはしばらく続くのではないかと思われる。

もう1つは「マスメディア系サイトへの回帰」の可能性である。キュレーションメディアの急増や世界的な「フェイクニュース」の流行は、ネット上には信用できない記事が一定数存在していることを白日の下にさらした。SNSの浸透以降、メディアの権威は少なくなり、「誰もメディア名を気にせずに面白い記事があればシェアする」という傾向が見られたが、こうした流れを受けて、SNS上で安易にシェアすることに慎重になったユーザーが、マスメディア系のサイトに回帰しつつある傾向が現れ始めている。

この傾向が今後も続くのかどうかはもう少し見守る必要があるが、良質な動画コンテンツを多数保有するテレビ局がどのように動くのか、またRadikoなどのアプリによって主戦場をスマホにシフトしつつあるラジオ局の動きなど、デジタルメディアの今後という点でもマスメディアには注目していく必要があると考える。