Windows95が発売された1995年、Yomiuri Onlineやasahi.comといった日本初のデジタルメディアも同じくその産声を上げた。そこから20年余りを経た今、ネットメディアはかつてないほど大きな影響力を持つに至った。ブロードバンド環境が整備され、スマホが普及し、さまざまなSNSプラットフォームが浸透したことにより、人々の情報接触のあり方が大きく変わり、結果私たちPR会社の業務も多岐にわたるようになった。

こうした状況を踏まえ、我々の研究所では、PRの現場で使えるデジタルメディアのランドスケープを把握するべく、「媒体への訪問者数」や「媒体が取得しているバズの数」といった視点からデジタルメディア全体を分析した。

1. 調査対象媒体

今回の調査対象媒体は、デジタルメディア情報を集めた弊社データベース「Digital Media Wiki」において「訪問者数が多い」「ソーシャルでの拡散に強い」「配信先を多数持つ」など、世の中に対して比較的高い影響力を持つと判断されたサイト567媒体を抽出し、分析した。なお訪問者数については、SimilarWeb Proの数値を参照している。

2. 調査期間

基本となるVisit数やPV数といったデータは、SimilarWeb Proの2017年6月時点の数値を用いた。バズ数については、弊社独自の「Buzz News Analyzer」を使って集計した。なお、ここで言う「バズ数」とは、各媒体に掲載された記事がFacebookおよびTwitter上でエンゲージ(シェア/いいね/リツイートなど)された数のことを指す。

3. メディアの分類

500以上におよぶ調査対象媒体は「取材の有無」を軸に分類した。そのうち自分たちで取材する媒体については「マスメディア系」「オンライン専業」の2つにわけ、自分たちでほとんど取材しないメディアを「二次メディア」と分類した。

  • マスメディア系
    マス媒体も持っていて、デジタルメディアも展開しているメディア
  • オンライン専業
    オンライン専業で事業を展開しているメディア
  • 二次メディア
    記事の多くを他社の配信やアルゴリズム、キュレーターに依存しているメディア
図1:メディア分類例

マスメディア系については、さらに「新聞/通信社」「テレビ/ラジオ」「雑誌」の三つに分類した。

同様にオンライン系媒体も「総合ニュースサイト」「専門ニュースサイト」「ネタサイト」の三つに分類した。内訳は、総合サイト」は三つ以上のカテゴリーを有しているもの、「専門サイト」は2つ以下のカテゴリーしか有していないものとした。
例えば女性系のメディアで、扱っているコンテンツがファッションとビューティーしかない媒体は「専門」、さらにエンタメやライフスタイル関連のコンテンツを含む媒体については「総合」という形に分類している。
ネタサイト」は上記と違って『やってみた・調べてみた・行ってみた・食べてみた』というタイプの記事を中心に、比較的小規模な編集部で運営しているサイトを指す。

二次メディアについては、「ポータル」「キュレーション」の2種類に分類した。
ポータル」は天気、交通、検索エンジン、動画などさまざまなコンテンツを有するサイトのニュースコーナーを指す。このうち、Yahoo! ニュースについてはその規模が巨大のため、1つのカテゴリとした。
キュレーション」とは、アルゴリズムで記事を集めてきて最適なものを掲出する、もしくはキュレーターが人力でまとめ記事を作成し、掲出しているサイトを指す。

4. カテゴリ別のメディア数/Visit数/バズ数の分布


今回調査した567媒体のうち、ほぼ半数が「オンライン専業」メディアであり、残りの三割強が「マスメディア系」、「二次メディア」は二割弱という割合であった(図2)。オンライン専業が多いのは、やはり「媒体の立ち上げやすさ」が大きく影響しているものと考えられる。

図2:カテゴリ別に見るデジタルメディア

しかしこの風景はVisit数で見ると大きく変わり、「二次メディア」がVisit数の約半分を占めている。これはつまり、日本のニュース情報についてはその流通のおよそ半分を「自分たちで記事を書いていない媒体」が占めているということを意味している。

またバズ数で比較するとさらに景色が変化し、全バズの四割以上が「マスメディア系」の記事に付いていた。対照的にVisit数で半数を占めていた「二次メディア」はバズの数で行くとその割合を大きく減らしている。

5. 詳細カテゴリ別のメディア数/Visit数/バズ数の分布


さらに先ほど紹介した、それぞれの分類を詳細に確認してみる(図3)。

まず日本中の全デジタルメディアのうち、3分の1はオンライン専業の専門メディアが占めていた。オンラインメディアの特徴として、最初は専門メディアとして小さくスタートし、そのジャンルで人気サイトになったのち、よりアクセスを集めるべく総合サイト化またはポータルサイト化していく傾向があるが、この数字を見る限りではそうなりきれていない「予備軍サイト」が多いことが伺える。

図3:詳細カテゴリ別に見るデジタルメディア

Visit数で特徴的なのが、現在日本のネット上で見られているニュースのおよそ4分の1(24%)をYahoo!一媒体で占めているという点である。今回はYahooでニュースを扱う2つのドメイン(news.yahoo.co.jpとheadlines.yahoo.co.jp)の数値を足し合わせているが、仮にheadlinesドメインのみで計算しても、調査対象全体の14%のアクセスがあるという結果になった。このことから、いわゆる「ヤフトピに出る」ことは依然として非常に意味のあることと考えられる。

バズの視点で見ると「マスメディア系」が優勢という話は先述の通りだが、そのうちの24%は新聞であった。新聞は継続して部数を減らしており、主に若年層からは「イケてない媒体」の代表格と見られがちだが、読みやすくてわかりやすい、しかも信頼の置けるメディアとして多くのシェアを獲得していることがわかる。良質なコンテンツ作りは一朝一夕ではいかない、「餅は餅屋」といった意識が、世界的なフェイクニュース問題やWELQ騒動を受けてユーザー側にも芽生えたものと推察される。

こうした「信頼できる優良コンテンツ」でサイトを構成するという考え方は、Yahooなどの大手ポータルサイトでも進んでいる。しかしほとんどのポータルサイトでは新聞ほどのバズの獲得には至っていない。

こうしたポータルサイト群において異質な存在が、ライブドアニュースである。Yahoo以外のポータルサイトのバズ占有率は10%となっているが、このうちの9割程度がライブドアニュースであった。ライブドアは非常にバズりやすい媒体であるため、クチコミ施策を実施する際には活用を検討すべきメディアだと考える。

 

【まとめ】

  • 日本の有力なデジタルメディアの約半数は、オンライン専業の媒体
  • Visit数では、Yahoo!ニュースをはじめとする2次メディアが圧倒的な強さ
  • 新聞は、そのコンテンツ力の高さからシェアされる記事を量産している