企業PRにおけるデジタル施策において、評価がわかれる施策の一つが「マイクロインフルエンサー・マーケティング」である。インスタ映えが流行語大賞に選ばれ、「インスタバブル」とも揶揄される状況がある一方で、一部のクライアントからは「今までの実施経験からは、その意味を見出せなかった」などの声も聞かれる。
この認識の乖離は、一体どこから生じているのか――。我々は、その原因のひとつとして、発注する企業側の要望と、受注するマイクロインフルエンサー側のできること/やりたいことの間にギャップがあるからではないかという仮説に行き着いた。
そこで我々は実際のインフルエンサー400余名の協力を得て、「インフルエンサーとはどのような人たちなのか」、「なにを考えているのか」、「どのような情報発信を望んでいるのか」を明らかにするアンケート調査を実施した(*)。
なお今回の調査においては、企業からの依頼を受けてインスタグラムで情報発信した経験を持つ「インスタグラマー」を対象とし、10万人以下のフォロワーを有する女性インスタグラマー402人から有効回答を得た。
フォロワー数2,000人から、意識が変わる
まずは「そもそもインフルエンサーとは何者か」という定義を再確認しておく。「インフルエンサーとは、①自分の世界観を確立しており、②SNSを使って、その自分の世界観を友人・知人以外のコミュニティに広く公開している、③さらにその世界観にファンが付いている人」を指すとわれわれは考えている。
インフルエンサーと呼ばれる人たちにも、芸能人やセレブを含む有名人から一般ユーザーまでさまざまな階層があり、その階層ごとに影響力の大きさが異なる。しかしその影響力の実測――関数の導出—―は不可能であるため、現状ではフォロワー数でしか判断できていない。
にもかかわらず、階層を分ける基準となるフォロワー数の具体的な数値は、国内外も含めて統一されてはいない。特に、ファンやフォロワーの規模が比較的小さい「マイクロインフルエンサー」については、その価格の低さも相まって、マーケティングでの活用がブームになりつつあるが、そのマイクロインフルエンサーに対する理解が深まっていないためにクライアント、代理店、そしてインフルエンサー当人たちからも不満の声が高まっているように感じる。
そこで我々は、フォロワー数のみを指標として単純に階層を設定するのではなく、「フォロワー数をフィルターとすることで浮かび上がる有意な差」をもって階層を区分すべく、調査を行うこととした。
その差が明確に表れたのが「自分の投稿がフォロワーの行動に影響を与えていると思うか」という設問への回答だ(図1)。
図1:自身の投稿がフォロワーの行動に影響を与えていると思う
フォロワー数1,000人未満では、「影響を与えている」という意識がないインスタグラマーの割合(当てはまらない+全く当てはまらない)は5割以上、フォロワー数1,000~2,000人未満に絞った上でも、約3割のインスタグラマーがフォロワーへ影響を与えていないと感じていることが判明した。
これに対し、フォロワー数が2,000人を超えると、意識していない割合がおよそ1割となり、「影響を与えている」(とても当てはまる+当てはまるの合算)と考えているインスタグラマーは実に約9割となった。
インフルエンサーという自意識が、投稿行動も変える
また、「自分はインフルエンサー」であることを自覚し始めると、投稿内容においても「自分のファン」をより意識した内容に変化する傾向にある。
「自身のInstagramアカウントでいいね!がつきやすい写真」についての質問では、フォロワー数2,000未満のインスタグラマーは「モノのみの写真」「風景のみの写真」「動物のみの写真」と回答する一方で、フォロワー数が2,000を超えると「自分」が写っていることが重要だと考えるようになる。(図2)。
図2:いいね!がつきやすい写真
この反比例はすなわち、インフルエンサーは「自分の世界観に対するファンの存在を認識している」ということにほかならないと言えよう。
ファンの存在は、彼女たちに「期待にこたえなければ」「世界観を守りたい」という意識を醸成させる。つまりインフルエンサーとしての“プロ意識”を植え付ける役割を果たしていると考えられる。
インフルエンサー・マーケティングへの協力を依頼するという実務上の観点からは、インフルエンサーにプロ意識は必須の条件であると考えるため、我々は2,000フォロワー以上のインスタグラマーを「インフルエンサー」と定義づけ、フォロワー数がそれ未満のインスタグラム利用者は「一般ユーザー」として区分するものとする。
ただしこの定義は、「フォロワー数1,999名以下のインスタグラム利用者はインフルエンサーとしての影響力がない」ということと同義ではないことに留意されたい。
(*)調査概要
調査方法 | 個別アンケートおよびインターネット調査 |
調査時期 | 2017年8月8日(火)~9月8日(金) |
調査対象 | 仕事としてInstagramで企業や商品のプロモーションに協力した経験をもつ 18歳以上の女性インスタグラマー(Instagramユーザー) |
有効回答数 | 402サンプル |
調査主体 | 株式会社プラップジャパン デジタルPR研究所 / 株式会社3ミニッツ |
調査協力 | 株式会社アイズ |
(山崎莉沙・渡辺幸光)