どの国や地域にもPRを考える上での「お作法」があり、それを考慮せずにコミュニケーションを行うと炎上に繋がる可能性がある。日本とは異なる常識を持った国でPRしていくには、文化や言語、人種、メディアに対する考え方など、包括的で深い理解が欠かせない。
それはもちろん東南アジアでも同様である。というよりも、人種や文化が多様な東南アジアこそコミュニケーションに対する深い理解に基づいて、広報活動を展開していく必要がある。
そんなわけで今回は、今年6月に弊社(プラップジャパン)に発足した「海外事業本部」の協力のもと、東南アジアでのPRにおける「ツボ」と、東南アジア地域における「炎上」について取り上げたい。
東南アジアの市場規模
ひとくちに「東南アジア」といっても、その規模は意外と大きい。
ひとつひとつの国で見るとあまり大きいという印象は受けないかもしれないが、地域全体で見ると、人口は日本の5倍以上にあたる6.38億人、またGDPもすでに日本(4.9兆米ドル)の半分以上に当たる2.5兆米ドルに達している。
経済の成長率も、中国(6.9%)やインド(6.8%)ほどではないものの、5.0%と非常に高い水準にあり、その成長するマーケットを目当てに日本企業はもとより世界中の企業から熱い視線を受けている。
PRのツボその1:デジタルを制するものが、PRを制する
そんな東南アジアの高い成長率を支える大きな特徴は「平均年齢の若さ」である。
超高齢社会に突入した日本の平均年齢は46歳、EUも40歳代、比較的若い韓国やアメリカでもそれぞれ39歳、37歳であるのに対し、ベトナムは29歳、インドネシアやマレーシアは27歳、フィリピンにおいては23歳と、他国と比べても著しく若い。
若い世代が多数を占め、経済も発展の一途をたどる東南アジアにおいては、生まれて初めて持った通信手段も・そして人生で最初に撮った写真もスマートフォンだという人が珍しくない。これはつまり、インターネット(特にモバイル)の利用率・普及率が高い傾向にあるという証拠であるとともに、新しいものを受け入れるのも得意であることを表していると推測される。したがってPRにおいても、当然デジタルPRが主戦場である。
PRのツボその2:東南アジアの人たちは、SNSが大好き
若くて多様な東南アジアの人たちは、SNSがとにかく大好きである。マーケティング会社のWe Are Socialとソーシャルメディア管理システムのHootsuiteが、インターネットに関する様々な数字をまとめた「Digital In 2018」によると、日本人がソーシャルメディアに使う時間が1日あたり48分と1時間にも満たないのに対し、シンガポールとベトナムは2時間以上、マレーシア、タイ、インドネシアの3か国が3時間以上、フィリピンに至ってはほぼ4時間という大好きっぷりが見て取れる。
その背景には、通年夏であり暑くてあまり外に出歩かない、四季がないため季節の変化が楽しめない、さらには欧米や日本、韓国(実はアジアの多くの国で、若者の一番人気は韓流タレントだったりする)に比べて自国の芸能界の規模が小さいなど、日常的に娯楽的な要素が少なく、リアルな生活が比較的退屈であることが影響しているのではないかと考えられる。
PRのツボその3:PRのキモは「繊細な配慮」
もうひとつの特徴は、東南アジアは民族や文化が多岐に渡る点である。例えばシンガポールは公用語が4つ(マレー語、英語、中国語、タミル語)もある。宗教も仏教、イスラム教、キリスト教、道教、ヒンズー教などと、東京23区程度の国土内に様々なバックグラウンドを持つ人々が集まっている。
もちろん広報やマーケティングにおいても、こうした民族、言語、宗教などのセンシティブな点での細やかな配慮や慎重さが求められる。この部分の配慮が欠けたコミュニケーションを実施すると、SNSの発達した東南アジアではすぐに炎上に巻き込まれてしまう危険性があることを忘れてはいけない。
東南アジアの炎上事情
このように、デジタルに対する抵抗がほとんどなく、SNSを使いこなし、民族や宗教などが多岐にわたる東南アジアでは、どのような炎上が起こるのだろうか。
民族・言語への理解が欠けた事例:MAKI-SAN(シンガポール)
8月9日はシンガポールの独立記念日である。国民は愛国心を示す赤いTシャツを着たり、盛大なパレードを見学に来たりと、街中が大変な賑わいをみせる。
独立記念日にはお祝いキャンペーンなどを行う企業も多く、具材の豊富さとアクセス性の良さで人気を集めるロール寿司のチェーン店「Maki-san」(7月には逆輸入で大阪にも進出!)も2017年8月9日に「Maki-Kita」と名付けた商品を発表した。
「Maki-Kita」という商品の名前は、マレー語で書かれたシンガポール国歌の冒頭部分「Mari-Kita・・・」をもじってつけられたものであった。しかし「Maki-Kita」はマレー語で「Curse us(私たちを呪え)」という意味だったのだ。
Maki-sanが同商品をInstagramやFacebookの公式アカウントで発表したところ、当然のことながら大炎上となった。シンガポール最大手メディアである『The Straits Times』も大きく取り上げ、独立記念日という話題性もあいまって、メディアでも盛んに報道されることとなった。
「こんな簡単なことに気づかないとは、マレー人がいない多様性にかけた会社だ」などの指摘が相次ぎ、Maki-sanは謝罪文をFacebookに投稿。「We do acknowledge the diversity of culture of our consumers and the people living in Singapore.」(私たちは、消費者とシンガポールに住む人々の文化の多様性を認めています。)とコメントすると同時に、マレー消費者の文化を尊重したいと発表するに至った。
宗教への配慮が欠けた事例:ナエロファー・ヒジャブ(マレーシア)
イスラム教を進行する女性が頭に巻く布を「ヒジャブ」という。イスラム教が国教であるマレーシアには有名なヒジャブブランドがいくつも存在している。
そうしたブランドの1つである「ナエロファー・ヒジャブ」は、エアアジアの女性パイロットの制服に起用されるほどの著名ブランドであるが、このブランドがクアラルンプールにある東南アジア最大のナイトクラブでブランドイベントを実施することを計画。
ところが多くのネット民から、「ヒジャブはイスラム教にとって神聖なものであるのに、イスラム教がタブーとしている“飲酒”が可能なナイトクラブで行うとは何ごとか!」ととの声が上がり、結果的に大炎上してしまった。
結果的に、同ブランドは議論を巻き起こしてしまったことを謝罪し、今後のマーケティング活動については宗教的・文化的な視点を配慮して実施することを約束することとなった。
宗教的視点に配慮し、炎上を回避:アンティ・アンズ(マレーシア)
アメリカのプレッツェルチェーン店として有名な「アンティ・アンズ」は、日本でも吉祥寺やお台場で展開しているが、同様に東南アジアにも多くの支店を持っている。
中でも人気のある商品「プレッツェル・ドッグ」を、マレーシアでは「プレッツェル・ソーセージ」として販売しているのをご存知だろうか。
イスラム教において、犬は豚同様に不浄の動物とされており、商品名「プレッツェル・ドッグ」が犬を連想させると考えたためである。特に「犬が入っているのでは?」とイスラム教信者が勘違いする可能性があるとマレーシア政府のハラール認証機関が指摘をしたことを受け、全世界の店舗の中でマレーシアでのみ表記を変えるという対応をすることで、炎上の回避に成功した。
最後に
繰り返しになるが、東南アジアの特徴は「多様な民族性」にある。シンガポールに限らず、インドネシアやマレーシアなど、東南アジアには様々な人種の方々が集まっている。
そのため、宗教や言語、考え方を的確に理解し、1つの事象が様々な捉え方をされるという可能性を念頭におき、それぞれに配慮し、常に幅広い視点でメディアや消費者と向き合うことが重要である。
このような細かい「お作法」を踏まえ、不要な炎上を避け、良質なレピュテーション獲得を目指す東南アジア市場でのPR活動をお考えの際は、ぜひプラップジャパンにお問い合わせを。
問い合わせ先:株式会社プラップジャパン 海外事業本部