フランスの優勝に終わり、33日間の熱い戦いに幕を下ろしたロシアW杯。
日本代表の活躍が光り、私たちに大きな勇気と感動を与えてくれた。数々の熱戦に手に汗握り、スーパースター達の美技に酔いしれ、睡眠不足と戦ってきた方も多いのではないだろうか。
W杯の大会期間を通し、世界中で膨大な数の記事が配信され消費されてきた。
ここでPR会社として気になるのが、どの記事が本当に「バズっていた」のか。日本代表に関する記事は海外で本当に話題になっていたのか。国内と海外のバズの傾向に違いはあるのか。
この傾向を探るべく、我々は2018年6~7月の国内・海外のバズ記事トップ10の傾向を分析した。また国内のW杯関連記事10,000件を分析し、W杯に絡めた企業のPR事例を抽出することで、今後のPRのヒントを探った。
■目次
- 日本国内におけるW杯関連記事のバズ数Top15
- ロシアにおけるW杯関連記事のバズ数Top10
- 英語圏におけるW杯関連記事のバズ数Top20
- 企業や団体によるW杯に絡めた3件のPR事例
1. 日本国内におけるW杯関連記事のバズ数Top15
調査ワード:「ワールドカップ」「W杯」 (バズの単位:千件)
■Yahoo!ニュースの拡散力の強さが際立つ
バズ数が最も多かった記事は、「敗戦直後、日本代表がロッカーに残したメッセージに世界が感動(ワールドカップ):HUFFPOST」であった。これは、ベルギー戦敗退後の日本代表のロッカーが美しく掃除されていた上、ロシア語で「スパシーバ(ありがとう)」のメッセージが書かれた紙も残されていたとFIFAのスタッフがツイートし、それが世界中で反響を呼んだという記事である(ツイート自体はその後削除)。こういった『日本の「おもてなし」精神が世界で受け入れられた』系の記事は総じてバズがつきやすい傾向にあるが、2位を大きく引き離しての1位を獲得したことはメディアとの親和性が高かったためと推察される。
HUFFPOSTはリベラルで社会性の高い記事にバズがつきやすいことは知られているが、実は過去記事の分析結果から、「日本愛」を打ち出した記事も多くのバズを獲得しやすい傾向があることがわかっている。今回の記事は、こうしたメディアの特性も強く影響した結果と考えられる。
2位は、日本中が熱狂した初戦のコロンビア戦勝利の記事。それ以外だと3位に本田選手に関する記事、4位に西野監督退任、7位に長谷部選手の代表引退の記事がランクインしている。代表の顔ともいうべき3者の記事が高いバズを獲得したのは納得だが、「半端ない」で話題になった大迫選手を単独で取り上げた記事が入っていなかったことは少し意外な結果だった。
その他、日本、そしてセネガルのサポーターによるゴミ拾いに関する記事も2つランクインした。またポーランド戦の西野監督の采配に対する批判的な記事も2つあった。直接サッカーと関係のない政治的な内容の記事も、2つランクインした。
メディアごとの拡散数に着目すると、Yahoo!ニュースが8記事もランクインしており、改めて拡散力の強さが際立つ結果となった。FacebookとTwitterの比較では、サッカーに直接関係する記事のほとんどはFacebookで拡散した一方、本田選手の誤読、政治的な話題、ドイツチームがゲームに耽っていた話など『サッカーとは直接関係しない話題』はTwitterで拡散していたことがわかる。
2. ロシアにおけるW杯関連記事のバズ数Top10
調査ワード:「World Cup」 (バズの単位:千件)
■ロシアでも、日本代表の振る舞いは注目されていた!
開催国のロシアでも、バズ数Topだったのは「日本代表がロッカーに残したメッセージ」に関する記事だった。日本国内だけでなく、開催国のネット界隈においても、ベルギー戦敗退後の日本代表の「粋な去り方」は大きな話題になったようだ。
2位は、ロシアの地方知事が戦争と試合を掛けて他国のチーム(この場合はドイツ)を皮肉った結果、炎上したという記事であった。9位にもロシアと関係(というか因縁)の深い国との関係について触れた政治的な記事が含まれており、政治とサッカーの関係について改めて考えさせられた。
それ以外は試合結果や選手の動向に関するものが多かったが、5位にはデンマークチームが地元住民と交流したというニュースがランクイン。記事中にはデンマーク選手がインスタグラムで公開した地元のビーチやマーケットで戯れている写真が多数アップされており、ほっこりする内容となっていた。この種のネタは、 洋の東西を問わず人気があることが確認できる結果となった。
バズ数については、全体的に日本のものより少ない傾向にある。日本ではTOP15が全て1万以上のバズを獲得していたが、ロシアでは1位の記事でも5,000に満たなかった。これはロシアで最も人気のあるSNSがVKontakte(フ コンタクテ。略称VK)であり、FacebookやTwitterがロシアでは一般的ではないためであり、また我々がVKのバズを拾うことができていないことに起因している。 また一覧の「内容」部分は、ロシア語のわからない当編集部がGoogleクロームの翻訳機能を使ってまとめたものであるため、誤訳の可能性があることを明記しておく。
3.英語圏におけるW杯記事のバズ数Top20
順位 | 英語タイトル | 内容 | 掲載日 | メディア | 総バズ数 | FB | TW |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Japan’s World Cup team leaves behind a spotlessly clean locker room | 日本チームは敗退後、シミひとつないロッカールームを背に帰国した | 2018-07-03 | CNN.com | 447.1 | 443.5 | 3.6 |
2 | Iran’s World Cup Squad Looks Like A Bunch Of Models Than Footballers | イラン代表がフットボーラーというより、モデルの集団のようである | 2018-06-12 | sportbible. com |
286.4 | 286.0 | 0.4 |
3 | England Are Out Of The World Cup After Loss To Croatia | イングランド代表がクロアチアに敗戦し、W杯を去った | 2018-07-11 | ladbible. com |
189.6 | 189.5 | 0.1 |
4 | Japan team leave World Cup dressing room spotless with ‘thank you’ note in Russian despite devastating loss | 日本のサッカー選手は劇的な敗退にも関わらず、ロシア語で感謝の気持ちをシミひとつないロッカールームに残し、帰国した | 2018-07-03 | standard. co.uk |
129.2 | 127.6 | 1.6 |
5 | England Are Sent Crashing Out Of The World Cup After Semi-Final Defeat To Croatia | イングランド代表が、準決勝でクロアチアに負けた | 2018-07-11 | sportbible. com |
121.1 | 121.1 | 0.0 |
6 | Team Japan Cleaned Their Locker Room & Left a Thank You Note After Losing World Cup | 日本のサッカー選手は敗退後、ロッカールームを掃除し、ロシア人への感謝の気持ちを残して帰国した | 2018-07-02 | worldofbuzz. com |
105.6 | 104.8 | 0.8 |
7 | Mexico Fans Are Hilariously, Adorably Hyping Up Koreans After They Defeated Germany In The World Cup | ドイツを打ち負かした韓国を祝うメキシコが陽気に盛り上がった | 2018-06-27 | buzzfeed. com |
98.4 | 97.8 | 0.6 |
8 | Japan And Senegal Fans Clean The Stadium After Historical Win in World Cup 2018 | 日本とセネガルのサポーターは、(お互いに初戦で)歴史的な勝利を見届けた後、スタジアムを清掃した | 2018-06-20 | 9gag.com | 98.4 | 98.3 | 0.0 |
9 | Neymar Has Spent 14 Minutes On The Floor During The World Cup | ネイマールはワールドカップを通し、14分間もピッチに転がっていた | 2018-07-05 | 9gag.com | 97.3 | 97.3 | 0.0 |
10 | Entire England Team Donating All Their Fees From World Cup To Charity | イングランド代表がワールドカップの賞金すべてを慈善団体に寄付 | 2018-07-01 | unilad. co.uk |
95.7 | 94.9 | 0.8 |
11 | World Cup 2018: England beat Sweden 2-0 to reach semi-finals | イングランドがスウェーデンを2-0で破り、準決勝へ進出 | 2018-07-06 | bbc.co.uk | 90.3 | 88.5 | 1.8 |
12 | Why Croatia’s FIFA 2018 World Cup coach Zlatko Dalic brings a rosary to the soccer pitch | なぜクロアチア代表監督ズラトコ・ダリッチは、ピッチにロザリオを持ち込むのか | 2018-07-11 | catholicnews agency.com |
90.2 | 89.1 | 1.1 |
13 | France’s World Cup win is a victory for immigrants everywhere | フランスの優勝は、世界中の移民にとっての勝利でもある | 2018-07-15 | cnn.com | 88.2 | 86.6 | 1.6 |
14 | Japanese Team Clean Up Locker Room After Losing at World Cup | 日本のサッカー選手は敗退後、ロシア人への感謝の気持ちをロッカールームに残し、帰国しました | 2018-07-03 | time.com | 84.6 | 83.1 | 1.5 |
15 | Olivier Giroud Didn’t Manage A Single Shot On Target In The World Cup | オリビエ・ジルーはワールドカップにおいて枠内シュートを1本も放つことができなかった | 2018-07-15 | sportbible. com |
82.8 | 82.5 | 0.2 |
16 | Senegal celebrate World Cup win over Poland by cleaning up their part of the stadium | セネガルサポーターはポーランド戦での勝利を祝い、試合後にスタジアムを清掃する | 2018-06-19 | dailymail. co.uk |
81.0 | 80.8 | 0.2 |
17 | Peru 2018 World Cup: Why you should root for La Blanquirroja. | 南米予選を最後に勝ち抜いたペルーチームを応援する人を募る記事 | 2018-06-14 | slate.com | 78.2 | 77.6 | 0.6 |
18 | World Cup 2026: United States, Canada and Mexico Win Bid to Be Host | ワールドカップ2026:アメリカ、カナダ、メキシコが共同開催国に選ばれた | 2018-06-13 | nytimes.com | 75.9 | 73.7 | 2.2 |
19 | The World Cup final will be held in New Jersey in 2026 | 2026年ワールドカップ決勝は、米国ニュージャージー州で開催される | 2018-06-13 | timeout.com | 75.2 | 75.0 | 0.1 |
20 | World Cup: Japan fans impress by cleaning up stadium | 日本のサポーターによるスタジアム清掃が好意的な印象を残した。 | 2018-06-20 | bbc.com | 74.5 | 70.8 | 3.7 |
調査ワード:「Worldcup」「World Cup」 (バズの単位:千件)
■なんと! 世界中で日本代表の振る舞いは注目されていた!
「Japan’s World Cup team leaves behind a spotlessly clean locker room:CNN」の記事がバズ数圧倒的1位だった。さらに同内容の記事が4位、6位、14位にもランクインしており、「日本代表の粋な去り方」に対する注目度の高さが、本当に世界中で話題になったことを改めて実感する結果となった。
また、日本・セネガルのサポーターによるゴミ拾いの記事も8位、16位、20位にランクイン(このうち16位はセネガルに関する話題のみ)するなど、Top20のうち、実に6つが日本に関する記事であった。
余談ではあるが、CNNの過去1年間の全記事のバズ数で見ても、上記日本代表の去り方に関する記事は2位に入っており(1位はトランプ大統領に関する記事)、海外で日本代表の振る舞いがいかに好意的に受け止められていたかが伺える。
日本以外では、(当然ではあるが)イングランドの記事に多くのバズがついた。準決勝で負けた記事が最もバズったというのは国民性の表れかもしれない。優勝したフランスの話題は2つしかなく、また準優勝のクロアチアについては1つしか記事がバズらなかった(しかも話題は宗教的なもの)。
これらの国以外では、アメリカと周辺国の話題も目立った。7位は「ドイツに韓国が勝ったために決勝トーナメントに進めることになったメキシコのファンが、韓国にめちゃめちゃ感謝している」という少し斜めな視点の記事がランクイン。18、19位には、2026のワールドカップ開催国に米国・カナダ・メキシコが選ばれたというニュースも。またTOP20からは漏れたが「メキシコチームがドイツ戦でゴールを決めた際にメキシコシティの地震計が揺れを観測した」というABC発のオモシロ記事も6.5万以上のバズを集めていた。
サッカー以外の話題としては、2位に「Iran’s World Cup Squad Looks Like A Bunch Of Models Than Footballers:sportbible」という「イケメン」としてのイラン代表を取り上げた記事がランクインした。さらに日本ではそこまで話題になっていない内容かもしれないが、「ネイマールは期間中14分ピッチに転がっていた」という、大会中大きな話題となった「ネイマールのシミュレーション」をちょっと笑える切り口で仕立てた記事も人気を博した。
メディアについては、ほとんどがアメリカまたはイギリスのメディアで占められていたが、6位の「World of Buzz」は、マレーシア・クアラルンプールに本社を構える「INFLUASIA」社の媒体であった。このように切り口がよければ(そして英語で書かれていれば)世界を相手にバズる記事が作れるといういい見本となった。
4.企業/団体のW杯に絡めた3件のPR事例
注目度の非常に高いW杯と絡め、自社商品やサービスをPRすることは有効だと考えられるが、一方で「便乗感」を感じさせてしまっては逆効果である。ここでは、国内のW杯関連記事10,000件を分析し、自然な形で自らのPRにつなげている事例を3件紹介する。
①奈良)王寺・久度大橋の雪丸、ワールドカップ仕様に/朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASL6M4RGGL6MPOMB00S.html
奈良県王寺町の公式マスコットキャラクターである「雪丸」。久度大橋にデザインされた「雪丸」がW杯仕様になったことが注目された。ユニフォームを着た雪丸のかわいらしさが反響を呼び、マスコットキャラクターや王寺町の認知拡大につなげた事例である。
②PS VR向け「ワールドカップ観戦用VIPルーム」は豪華絢爛…ただし冷房は強めに/engadget
https://japanese.engadget.com/2018/07/04/ps-vr-vip/
ソニーのゲーム部門がBBC Sports VRと手を組んで、あたかもピッチを見下ろしているような臨場感を味わえる仮想VIPルームを用意したという記事。「ロシアワールドカップを人とは違う形で見てみたい」という人の望みにソニーの技術が応えたという切り口になっており、Playstation4、PS VRのアピールにつなげている。
③4人家族で50平米台? ワールドカップ開催地ロシアの住宅事情/SUUMOジャーナル
http://suumo.jp/journal/2018/06/29/156533/
ワールドカップにより注目度が高まっている開催地ロシア。その住宅事情についての記事。同記事は、まず「国土の広さに対してロシアの住宅は狭い」「一戸建てはレンガ造りが多い」という意外な事実を紹介し、そんなロシアの一戸建て住宅市場に(取材協力先である)飯田グループホールディングスが「Made With Japan」という思想とともに木質在来工法を持ち込んで進出、という内容になっている。
また、”一戸建て業界の日本代表”という切り口でワールドカップに絡め、ロシアで日本流の工法や品質が高い評価を得ていることを紹介することで、同社のレピュテーション向上につなげている。