SNSの普及により広報活動の効果測定指標としても一定の存在感を持つようになった「ネット記事上のエンゲージメント数」、つまり各記事がSNSでどの程度シェアされ「バズったのか」を可視化する数値。広報・宣伝担当者からの「とりあえずバズらせたい」という依頼は、(一時期ほどではないものの)今でも多く聞かれる。
バズる要素とは何か―。マーケターの勘や偶然に頼るのではなく、戦略的にバズを起こすにはどうしたらいいのか。このヒントを探るため、我々はプラップジャパンの独自分析ツール『Buzz News Analyzer』を使って国内主要800ネットメディア全記事のエンゲージメント数を常時観測しているが、今回は2018年1月~3月のバズ記事トップ20の傾向を、主にSNSの特性による差に着目して分析した内容を紹介する。
■拡散の起点となったスポニチアネックス
今回の調査対象期間は、大物俳優やスポーツ選手の訃報が相次ぎ、また平昌五輪というビッグイベントの会期中であった特殊性を考慮すると、記事テーマについて有用な考察は難しいが、注目すべきは掲載媒体である。
トップ20のうち5つもの記事がランクインした訃報記事を媒体別に見ると、Yahoo!ニュース、Livedoor、lineニュース、スポニチアネックスの4媒体となるが、このうち、二次メディア(Yahoo!ニュース、Livedoorニュース、lineニュース)の転載元媒体を見ると、すべてスポニチアネックスから配信された記事であった。つまり、トップ20にランクインした訃報のすべてがスポニチアネックスの記事という結果となった。
平昌五輪の話題は3つの記事がランクインしたが、このうち最も多くのエンゲージメントを獲得した記事は「表彰式後に半裸の男性がリンクに乱入し、白鳥の湖を踊る」というものであった。平昌五輪については、当然のことながら期間中にテレビや新聞などのマスメディアも大きく取り上げたが、ネット上ではこの記事に最も人気が集まった(特にTwitterで)点に、デジタルメディアの独自性が垣間見える結果となった。
報道以外の記事については、クイズ系でBuzzFeed、ダイバーシティ関連に力を入れているHUFFPOSTがランクインしている。とはいえ、バイラルメディアが強い影響力を持っていた1〜2年前と比較すると、勢力図は大きく変わったことが実感できる。
■バズる2強ポータル Yahoo!とLivedoorの違い
今回に限った話ではないが、同じ話題が別々の媒体で盛り上がることもしばしば起こる。今回の場合は大杉蓮氏の訃報や「餃子の王将が、豪雪で立ち往生した車に無償で餃子を振る舞った」ニュースがそれに当たる。
メディアごとの拡散数に着目すると、Livedoorニュースの強さが光る。SimilarWeb Proによれば、Yahoo!ニュース(headlines.yahoo.co.jp)の1ヶ月あたりのVisit数はLivedoorニュースの3倍以上にあたるのだが、エンゲージメント数はどちらのトピックもLivedoorニュースの方が多くを獲得している。
Livedoorニュースがランキングの上位を獲得しやすい理由は、Twitterとの親和性が高いことに起因している。Twitterは、FacebookやInstagramと比較して拡散性の高いSNSである。したがって、Twitterに強ければより効率的に拡散ができる(=よりバズりやすい)傾向があると考えられる。
これに対し、Yahoo!ニュースはどちらかというとFacebookでエンゲージメントを獲得しやすい傾向がある。一般的にTwitterに比べてFacebookユーザーは年齢層が高いと言われているが、Yahoo!ニュースも(弊社が独自に実施した調査によると)年齢層が高めのユーザーに支持されており、それぞれの媒体と、拡散エンジンとなるSNSには相関が見られた。
ただ、ここにもSNSごとのユーザーの性質が関係し、「コンテンツがネガティブな内容(炎上系)やネタ系」といったTwitterユーザーが好むコンテンツの場合は、Yahoo!ニュース上でもTwitterの方が拡散しやすいことを付け加えておく。
■社会運動に関する話題はTwitterで拡散
それ以外では「ミソジニー(女性蔑視)にユーモアをもって対抗する女性を取りあげた話題」が8位にランクインした。セクハラ被害を告発し社会に問題提起する運動「#MeToo」も同様だが、ジェンダーや人種などの差別に対する社会運動の話題はTwitterで拡散されやすい(実際にこの記事のエンゲージメント数は、圧倒的にTwitterが多い)。
こうしたいわゆる「ポリコレ」(ポリティカル・コレクトネス)に関する話題は、アメリカでは利用者が多いFacebook経由で広がる傾向があるが、日本では基本的にはTwitterの方が拡散力が高い。例えば今年の3月末までに掲載された「#MeToo」に関する記事のうち10以上のエンゲージメントを獲得した(=それなりにバズった)339記事について調べてみたところ、Facebook経由で獲得したエンゲージメントが35,332だったのに対し、Twitter経由で獲得したものは54,591と1.5倍以上であった。
また、「#MeToo」然り、社会運動に関するツイートには、独自のハッシュタグがつけられる傾向がある。過去にTwitterで広まった社会運動の例としては、「#保育園落ちた日本死ね」や、「#BlackLivesMatter」など。その投稿を見て賛同したユーザーが同じハッシュタグを付与してツイートおよびRTし拡散していく。ソーシャルメディアの象徴であるこのハッシュタグの活用も、バズ戦略の一つといえるだろう。