バズを読み解き、トレンドの「規模」を計測する

PR会社的視点でトレンドを計測しようとした場合、指標として考えられるものには「露出数/量」「広告換算額」「SNS上でのシェア数」などが挙げられます。これらの量や金額を計測したり傾向を読み解くことで、キャンペーンの成否などを判断するわけですが、今回はそうした計測手法のひとつとして、昨年度デジタルメディアに掲載された記事についた「バズの数およびその傾向」について理解を深めたいと思います。

まずそもそも「記事についたバズ」とは何を指すのかという点から説明します。

以下の画像は朝日新聞が運営するwithnewsというニュースサイトの記事ページです。この媒体に限らず、最近のほとんどすべての記事にはソーシャルでの拡散を促す目的で「ソーシャルボタン」が置かれています。このサイトの場合、ソーシャルボタン内にクリックされた数が入力されており、どの程度シェアされたのかが一目でわかるようになっています。

ほかのデジタルメディアの記事にはこの数値を掲載していないところも多数ありますが、この数値を掲載していないサイトでも(技術的には)計測可能です。

そこで我々は、記事を拡散させたことを示すこの数値に着目し、2016年から日本の主要ウェブメディアおよそ500媒体に掲載された記事のバズ(FacebookとTwitterのみ)を取得してきました。

たとえば上記の記事の場合、およそ2,500のtwitterアカウントがこの記事を拡散し、150以上のFacebookアカウントでもシェアされたことがわかります。この数値を他の記事と比較することで、どういうトピックがシェアされやすい(=バズりやすい)のか、どのメディアにはシェアがつきやすいのか、またプラットフォームごとに好まれる記事の傾向が違うのかなどが分析可能となります。

つまりFacebookとTwitterという2つのプラットフォームを経由して、どれだけの拡散があったのかを確認することで、話題の「規模」を計測することが可能になるわけです。

 

編集価値の逆転現象

それではなぜネット上のバズを分析してシェアされやすいトピックを理解することが、それほど重要なのでしょうか?

ひとことで説明すると、それは「編集価値が逆転してしまったから」です。これがどういうことを意味するか、もう少し詳しく説明します。

今までのいわゆるマスメディアからの情報発信が主流だった時代の場合、一般的な情報流通は「メディアが情報を発信してそれがトレンドになる」という形が一般的でした。したがって、トレンドの種になりそうな情報をメディア側に渡し、話題化してもらうということがPR会社に求められていたことでした。

もちろんトレンドの種を蒔いて、マスメディアとともに育てていくのは、今でも我々PR会社の重要な仕事であることに変わりはありません。しかし双方向での情報発信が当たり前になったデジタルのメディア環境においては、その種を一般の方々が持っている(もしくはその種はSNS上に落ちている)ということもとても増えてきています。

このような環境においては「メディア側でイチからトレンドを考えて、流行らせるために大量の(そして良質な)記事を発信する」よりも「バズの中からトレンドの種を探してきて、なるべく早く記事化する」という形のほうが効率よくページビューを獲得できるということを意味します。そして実際に多くのウェブメディアにおいて、PDCAを回しながら、そうした方向で編集がなされることが非常に多くなっています。

これは、別の言い方をすると、メディア自体が「プロダクトアウト」型から「マーケットイン」型に変わってきた結果ともいえます。そしてマーケットイン型が主流なメディア環境においては、バズの傾向を理解してから企画を考える方が効率良いプランニングにつなげやすい、ということだと考えられます。企画を考える際に「効率」という視点から考えるのが良いかどうかは議論の分かれるところではありますが、少なくともデジタルで情報を流通させるという視点では有効なのではないかと思われます。

 

バズがつきやすい媒体

次に、バズがつきやすい媒体について確認します。

我々は、「とてもバズった」記事を掲載した媒体を抽出し、影響力の強さを検証してみました。今回は記事全体の0.01%程度しか存在しない、10,000以上のバズを獲得した記事数を媒体毎に分類した結果が、以下になります。

実数で言うと、だいたい全部で2,200強の記事数になりますが、Yahoo! がそのうちの624記事と、全体の3割程度を占めています。Yahoo! はSimilarWeb PROで調べた総Visit数でも、ネットニュース媒体全体の2割を占めていましたが、話題化という点でも大きな影響力があることがわかります。続いてlivedoorが17%に相当する348件、さらに朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、BuzzFeed、Share News、HUFFPOST、日経新聞、ねとらぼと続きます。

このうちShare Newsは政治に関するゴシップ的な話題が多く、企業に関係するPRにはあまり適さないものの、それ以外のメディアについては企業のサービスや商材に関する掲載につなげられる可能性もあるため、こうした媒体に取り上げていただきやすい切り口を検討することが重要です。

 

Facebook向きの話題は、Twitterのそれとは大きく違う

バズを獲得しやすい媒体については上記の通りとなりますが、FacebookとTwitterではバズを獲得できる話題の傾向が大きく違います。

例えばFacebookの場合、2018年度に大きくバズを獲得した話題は「森永チョコフレークの生産中止」や「Aesopの新しいラインナップ」「キャンプ用品メーカーのsnow peak」に関するものなどでした。高額の化粧品やアウトドアブランドに関する話題など、比較的リア充なターゲットに向けたブランドが話題になっており、また平成はおろか昭和から続く商品に関する話題など、ある種の回顧主義的なコンテンツが多くの共感を集めました。こうした傾向はFacebookユーザーが30~50代に多いことも影響していることが推察されます。

いっぽう、Twitterの方はハーゲンダッツの新商品やStarbucksの新作フラペチーノ、またはゲーム「星のカービィ」とコラボしたグッズなど、どちらかと言うと若年層向けの新作グルメ的な記事のほうがバズを獲得しやすい傾向があります。

食べ物に限った話だけではなく、その他の話題を見ても、全体の傾向としてはかなり大きく違ってくることが明らかになっています。例えば経済ニュースにしても、Facebookでは決算発表や大規模な詐欺などの経済事件といった情報がシェアされやすい一方、Twitterでは「働き方/働かせ方」やブラックな研修内容など、もう少し労働に関するものが拡散しやすい傾向にあります。こうしたことから、自分の担当している商材やサービスは話題化させる際にどちらのSNSを使った方がいいか、プラットフォームとの相性という側面からも考える必要があると思います。

 

バズは以前より獲得が難しくなっている

バズが付く傾向を見ていると、そもそもどのくらいのバズが日本国内に流通しているのか、という疑問を持つ方もいるかと思います。そこで我々は、2017年の4月から2019年の4月までの2年分のバズ獲得状況を確認し、グラフ化してみました。

バズが獲得できた総記事数が棒グラフ、記事に付いたバズ数を全部足しあげたのが赤い折れ線グラフです。2017年の9月くらいまではバズを獲得した記事数は文字通り右肩上がりで、最盛期には1ヶ月で100万記事に迫る勢いにあったのですが、そこからは基本的に下降傾向をたどり、現在は60万記事前後となっています。総バズ数も最盛期には5,000万を超えていたものが、現在は4,000万前後と、およそ2割程度減らしています。つまり、以前よりバズを獲得するのは難しくなってきているというのが確認できます。

したがって「どの程度バズを獲得すれば成功なのか」という基準も、去年と今年では大きく変わってきています。2017年度は、バズを獲得した記事が1,000万件近くありましたが、2018年度では800万台前半にまで減ってしまいました。また10,000以上のバズを獲得する記事の数は大きく変わってはいませんが、それ以降の記事のバズ獲得傾向は全体的に小粒になってきているという印象を受けています。

例えば2017年度だと、50程度のバズを獲得した記事は、全体のトップ10%に入っていましたが、2018年度になるとその半数の25程度のバズを獲得しただけで、全体のトップ10%に相当する状況になってきています。

このように「バズの獲得は徐々に難しくなってきている」ことを理解しながら、そうした状況下でも話題化させるために何をしたらいいか、トレンドを確認しながらコミュニケーションのプランを検討することが、これからの戦略的広報/マーケティングにはいっそう求められると我々は考えています。