プレスリリース作成やメディアキャラバンをはじめとして、まだまだ人力で作業する部分が多いPR業界。どんなプレスリリースを書くのか、どのメディアにアプローチすべきなのか、という判断についても、一定のセオリーはあるものの、担当するPRパーソンの経験値によって決められることが多いのが実情だ。

しかしながらスマホ普及によってデジタルPRやSNSでの情報発信など、業務範囲は増えており、業務の効率化は必要不可欠である。そこで今回は、様々な分野で導入され、作業のオートメーション化や属人的な業務の標準化に成功している”AI(人工知能)”にフォーカスを当てたい。

マーケティング分野におけるAI(人工知能)研究の第一人者であり、当研究所においても外部フェローを務める山崎俊彦氏(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 准教授)に、”PRは、AIでどこまで進化するか”をテーマに話を聞いた。

写真:山崎俊彦氏(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 准教授)

 

ーAI広報がプレスリリースを書き、メディアリストを作成して配信するという未来もやってきそうですね。
そうですね。ただ、これから記事を書くのは人間だけじゃなくなるので、注意が必要です。というのも、報道関係の人も記事をAIに書かせたいと言っています。株や大学野球などのニュースではすでにAIが入って記事を書いているものもあります。

ーPRパーソンのあり方が変わってきそうですね。
あとは、その中間でAIを活用するということもありえると思っています。AIが作ったリリースを直接投げ込むのではなくて、AIが100通りのパターンを自動生成してくれて人間が自分のセンスで良いと思ったものを選ぶというのが取り組みやすいと思っています。人間とAIの共存ですね。

某企業では既に実施していますが、キャッチコピーを考える際に、AIにもキャッチコピーを自動生成させるのです。そのまま採用される訳ではないけれど「このフレーズちょっと気になるよね」みたいなきっかけとなる役割に期待していると言っていました。

ーいつかPRパーソンはAIに変わるのでは、という不安があったので、少し安心しました。(笑)
記事にしてもどう伝えたら誰がハッピーになるのかとか誰が興味を持ってくれるのか、みたいなところはまだ人間が活躍できる余地がある。人間がAIに負けない部分は結局は人間と関わる職業なのですよね。

 

ーAIだとやりづらい分野はありますか?
「誰も見たことの無い、心に刺さる何か」を作らせることは今の段階ではすごく難しいです。例えば、ゴッホの絵を沢山勉強させて、ゴッホっぽい絵を描くことはできます。しかし、ゴッホのように大ヒットして、でも誰も見たことない斬新な絵を描いてくれというと、それはできない。もちろんヒットする要素を勉強させて精度を上げることはできますが、世の中の人々がどういうものを欲しているかによっても変わるので、なかなか難しい。

ーAIは課題解決には向いているけど、課題抽出は得意ではないということでしょうか?
問題発見については多くのAIの研究者が取り組んでいるのですが、ほとんどできてないというのが現状です。唯一できていると言われることは囲碁や将棋の新しい手を作ることです。人間が思いつかなかった様な手をAIが考えてプロに勝ったというのがありますよね。

ーすごく話題になりましたね。
あれは実は理由があって、囲碁や将棋というのはすごく特殊な例なのです。「完全情報ゲーム」と呼ばれるものですが、お互いにお互いの手が見えている。麻雀みたいに相手の手が隠れていない。なので、盤を見た時にどっちがどれくらい有利かということを全員が客観的に判定できる。その条件下でシミュレーションで何億通りも試すことができるから囲碁や将棋は人間の見たことのない手をAIが作ることができた。

しかし、人間の心の中はAIでは見えないし一人ひとり違うものですから完全情報ゲームになりえない。ですので、シミュレーションしてそこから新たな問題を出すというのはとても難しい。

ー人間のインサイトを見るというのは難しいですよね。
ですので、なんでもかんでも簡単にAIに取って代わられる訳にはいかないと思います。

ー例えばプラップジャパンもAIにクリッピングさせる取り組みをしています。こうした単純作業が機械化されるのは良いと思っていますが、リリースを書くような頭脳労働のところまでとなるとさすがに危機感を覚えていました。でもまだそこまで行き着くのには相当時間がかかるということですね。
AIに奪われる仕事ってリストを見ると医師、弁護士、公認会計士などがあってすごい衝撃的ですよね。でも逆の見方をすると納得できるのです。というのも、例えば医師が何故すごいと言われているかというと、ありとあらゆる病気の可能性を過去の経験に基づき「これはこういう病気じゃないか」「こういう副作用が出るのでは」と判断できるからですよね。

ただ、人間は自分自身の経験しか自分の実力にできないのです。本で読んだり人から話を聞いたりしたことも一部自分の実力にできますが、それらを含めて基本的には自分が経験したことしか自分の身にならない。そう考えると、人間ひとり分の実力ということです。

一方AIはその経験が数値になっていれば一台のコンピューターに世界中の経験を詰め込める。そうすると世界中の経験則をもとにAIはいくつもの解決策を導くことができます。例えば、2016年にはAIが難症例患者の正しい病名を見抜けたという例が報告されています。このように過去の経験に基づいて「こうではないか」とする判断はAIのほうが得意だと言えます。

ただ、患者さんに対して、心を傷つけずに病気の状況を伝えるとか、どうやって乗り越えさせるかとかのサポートはAIにはできないのです。なので、先にご紹介した仕事がそっくりそのままAIに置き換えられるわけではなく、スタイルが変わっていくものと思っています。

ー今後我々がどうなっていったら良いかの示唆ともいえますね。
AIを取り入れるとなった瞬間「それ全部AIでやったら」という話になりがちですが、私がやりたいことはAIを使って人間の能力を高めるとか、AIが参考意見を出すことによって「それで本当に良いか」と確認ができるようにすることなのです。これを私はレストランのランキングサービスと同じような使われ方だと思います。

ーそれはいったいどういうことでしょう?
レストランのランキングサービスって、いろいろなお店が口コミによって点数化されていて、ランキングが表示されているじゃないですか。だったらランキングを見た人が全員人気ナンバー1のお店に行くかというとそんなことはない。今日はフレンチの気分じゃなくて中華の気分だったとか、ネットでは評判が悪いけど自分はあのお店のとんかつ定食が好きなんだみたいな、その人のこだわりとか個性とか出てきますよね。

AIを使うと最善が分かると思われていますが、その答えを一律で全員に採用させるのではなく、AIを使って出した参考意見を提示して、人間に選ばせるのが良いと思っています。「これは多くの人が良い/悪いと言うと思います。あなたはどう思う?」と聞いてあげると人間の能力も上がって社会全体がハッピーになれるのではと考えています。

ーコンシェルジュみたいな役割ですね。確かにこれが正解だからこうしろとAIに指示されたらカチンときそうですね(笑)。
私はそこに興味はなくて、AIを使って人間が上手くなることに興味があるのです。

ーAIの力によってPRは進化できるし、AIにできない部分をPRパーソンが担い、さらに発展させられる。デジタルPR研究所としても、今後AIを活用したサービス作りに取り組んで行きたいと思っておりますので、引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。