プレスリリース作成やメディアキャラバンをはじめとして、まだまだ人力で作業する部分が多いPR業界。どんなプレスリリースを書くのか、どのメディアにアプローチすべきなのか、という判断についても、一定のセオリーはあるものの、担当するPRパーソンの経験値によって決められることが多いのが実情だ。

しかしながらスマホ普及によってデジタルPRやSNSでの情報発信など、業務範囲は増えており、業務の効率化は必要不可欠である。そこで今回は、様々な分野で導入され、作業のオートメーション化や属人的な業務の標準化に成功している”AI(人工知能)”にフォーカスを当てたい。

マーケティング分野におけるAI(人工知能)研究の第一人者であり、当研究所においても外部フェローを務める山崎俊彦氏(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 准教授)に、”PRは、AIでどこまで進化するか”をテーマに話を聞いた。


写真:山崎俊彦氏(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 准教授)

ーPR業界では「どういう記事が出たか」で評価されることが多いです。最近だと記事にシェアやリツイートなどが付いた記事が特に評価されるのですが、記事の人気予測のようなことはできるのでしょうか?
原理的にはできると思います。「どのような記事の書き方がより注目を集めやすいか」などですね。また、プレスリリースを沢山配信してみてこの時は反応が良かったとか悪かったというレスポンスを大量に集めることによって、どういうプレスリリースが反響を集めやすいかという分析はできると思います。

ーそれはすぐにでも実用化できそうです。
類似事例で既に実用化しているものが、SNS投稿のエンゲージメント数予測です。「こういう投稿をしたらいいねが伸びます」とアドバイスをくれるシステムの研究を行ってきました。今はサイバー・バズさんと協力してその先の研究やサービス化の試みをしています。つけるべきハッシュタグの抽出もできますし、画像の良し悪しも判断できます。

実際にその効果検証もしていて、人間が考えたハッシュタグとAIが考えたハッシュタグをつけた場合のレスポンスをみました。すると投稿後10日で、前者は1枚あたり30人くらいで後者は60人くらいが見てくれました。全く同じ画像を投稿したとしてもハッシュタグのつけ方ひとつで2倍くらいの差が出てしまうということです。コンテンツのアクセス数や人気はAIによって高められるのです。

似たように、記事内容を解析することで、記事の人気予測や人の心に刺さりやすい記事の生成などもある程度はできると思います。

 


ーAIが書いた小説や記事はこれまで見たことがありますが、プレスリリースのAI作成というのは可能ですか?
ある程度はできると思います。AIって、何の知識もない赤ちゃんみたいな状態では何もできないので過去の事例をいっぱい見せるのです。お手本があってそれを真似させるのか、お手本にない何かをクリエイトするのかで難しさが全然違ってくる。「前例と同じ感じでやって」ということはやりやすい。そういう意味では、ある程度のクオリティのリリースを作らせることはできると思います。

ーリリースはある程度定型があるものも多いので、複数パターン生成して、今回はこれがいいね、など選べるといいですね。
あまりの大作は無理ですが、リリースならできるかもしれない。今日本国内ではショートショートをAIで書くというコンテストをやっていて一次審査くらいなら受かるそうです。いまは人間の手助けも相当入っていると聞いたことがありますが、それにしても小説もある程度書けて、審査員もAIが書いたか人間が書いたのか区別がつかないということですよね。

ーということは、AIが審査員側にいくことも?
できる可能性は大いにあると思います。AIは何が魅力的で、どうやったらより魅力的になるかということがわかるので、審査員もできるはずです。例えばですが、先程例として出したプレゼンテーションの印象解析はかなり精度良く予測することがすでに可能です。

ー研究内容にマッチング・推薦がありますが、記者とPRパーソンのマッチングも可能でしょうか?
やってみないとわからないところは当然ありますが、オンライン婚活で「この人とこの人が合いそう」、また不動産分野でもこの人には物件が気に入りそう、などができているのである程度予測はできると思います。

ーということは、プレスリリースをAIに読ませて、送るべき記者さんを事前に絞り込むということができそうですね。
それをやろうと思ったらその記者さんに過去に投げ込んだリリースとどれが記事化したかというデータがあればできますね。この記者さんはどのトピックに食いつきやすいかという傾向はある程度予測がつけられます。また、世の中で記事化されているものをデータとしてAIに読ませ、記者さんが飛びつきやすい例だよということを教えてあげるとAIの精度が上がると思います。

ーこの記者さんは何%の確率で記事化してくれる、ということがわかればアプローチする優先順位が付いて効率がよくなりますよね。
ただひとつ気をつけるべきは、記事化についてはその時々の時流・トレンドに左右されるということです。ディープラーニングに読ませられるのは過去のデータなので、最新の世の中の動向を踏まえた予測は難しいです。

例えば今AIに関する記事を投げ込んだら記事化してもらえると思うけど、10年前に今と同じようにAIと言ったら笑われてしまう状況でした。

今投げ込んで上手くいくのかというのは、過去のデータでトレーニングしてもうまくいかないので、目新しいものに対する予測はうまくできないということもあります。できるものもあればできないものもあって、完璧というわけではないのです。

ーAIに頼りすぎてもいけないということですね。
ただ、人間の経験というものにも実は頼りすぎてはいけないのです。

以前、ソニー・メディア・ネットワークス (SMN)さんとの共同研究で2万枚のウェブのバナー広告をディープラーニングに読み込ませて、そのクリック率の良し悪しを予測する実験をしたことがあります。ディープラーニングの正答率は約70%でした(ランダムに予測した場合正答率50%)。

我々としてはもっと高くあって欲しかったのですが、それでも全く同じ予測を、日々広告に関わる社内の方にお願いしたところ正答率は52%でした。人間でも、実際のところはコインを投げて決めるやり方と大差なかったという結果になり、一同「人間の経験や勘に頼った判断も考えものかもしれない」となりました。

そういう意味で、まずは、人間よりもディープラーニングに意見を言ってもらったほうが精度としては高い場合があるということが示せたと考えています。

 

「後編~AIとPRの共存~」に続く