効果測定にバズを利用する

前編では2016年にバズのついたニュース記事のランキングを紹介したが、このバズ記事のデータは、ほかにも多様な形で利用できる。チームでは以下の項目で解析を進めている。

・ バズを作り出すのが上手なメディアTOP100(上のランキングでは生産記事数が多いほど有利に出るので「打率」が分からない)
・ 季節別・月別のバズのつきやすい話題TOP100
・ 業界別の話題TOP100
・ 自社と競合のバズ記事比較
・ どれくらいバズを獲得したら成功なのか

データはすべて手元にあるが、一つひとつが巨大なため、紙数の関係上、全部は紹介できない。ここでは最後に、広報に携わる方々が最も興味を抱くであろう、「どれくらいのバズを獲得したら成功なのか」に絞って紹介する。

指標としての「バズ」の特徴

ご存じの通り、多くの広報関係者において、(デジタル)メディアの広報・PRの効果測定は3つの方法が一般的だ。(1)広告換算値……記事に近似した広告の値段の合計で活動を評価する、(2)リーチ数……露出した記事の媒体visit数(もしくはPV数)の合計で活動を評価する、(3)媒体ランクでの露出数……広報の目的や優先度に従ってメディアを分類(Sクラス、Aクラス、Bクラス……など)し、それぞれのクラスのメディアへの露出数で活動を評価する。

それぞれに長所・短所があり、精緻化すれば有効な方法だ。しかし、バズ数による評価はまったく新しい軸を導入することができる。

広報評価方法の長所・短所

既存の3つの方法は、いずれも露出した記事数にそれぞれの指標を掛け合わせて有効となる。従って、どれだけ多数の記事を獲得したかが原理的な評価にならざるを得ない(それは戦術的に間違いとはいえないが)。少数だが反響の多いPR活動を大きく評価するのか、多数の反響のあまりないPR活動を評価するのかは簡単には決し得ない問題だ。

もうひとつ問題がある。3つの方法は、いずれも最終的には広告の価格が高い媒体=visit数が多い媒体が有利だ。しかし、例えば日本の最大級のポータルサイトは、150以上のニュース媒体から1日6000~10000記事が送られる、といわれている。推計年間300万以上の記事があり、恐らくPVのカウントがほとんどないような記事が相当数ある。しかし、そうした泡沫(ほうまつ)的な記事であったとしても、露出すれば最大級の評価を受ける。小さなメディアで6000バズを起こした記事よりもだ。

複数の統計が支持するように、一般の人はネットメディアを閲覧するのに、ソーシャルメディアから到達する率がかなり高い。トップページから順にいろいろ記事を見ていく、ということなどはほとんどなく、シェアされた記事を直接見ているのだ。つまりメディアを体験している、というよりも個別の記事を体験している。バズはメディアではなく、記事を評価できる点で大きなアドバンテージがある。

つまるところ、既存方法は記事の獲得数とメディアの大きさだけを軸にした間接評価に陥りがちだ。一方で、記事についたバズ数での評価は、すでに一般の人の心を動かし、アクションさせたという結果の数字、つまり「影響」を直接評価することができる。
本質的なPR活動のゴールが、人を動かしたかどうかで決まるなら、こちらの妥当性はかなり高いように感じる。

 

手法 長所 短所
広告換算 金額換算のため、ROI測定に向いている。 メンテナンスが煩雑で、非現実的なほど巨大な値になることがある。 獲得した記事数を評価する
リーチ数 客観数字で影響力を評価できる。 巨大メディアだけを高く評価することになる。
独自
ランク
会社にとって有効なメディアを選定し評価できる。 客観性の担保が難しい。コーポレートPRと商品PRで同じ評価ができない。
バズ数 実際に人を動かした結果を量的に評価できる。 獲得した影響を直接評価する

どれくらいバズがついたら成功なのか

では、露出した記事にどれくらいのバズがつけば、その記事は「成功」と呼べるのだろうか。これを判定するためには、バズのついた記事の希少度を判定できればよい。262万記事を、バズ数別に分布したのが下のグラフだ。

バズ数別の記事数分布


(横軸=バズ数 縦軸=記事数)


一番右列はバズ数0記事の推計値で、合計800万。記事全体の75%を占める。実のところ、バズは1つでもつけば記事全体の上位25%に入ったことになり、ある意味成功とも呼べなくもない。次の1~49バズが156万記事ほどあり、全体の14.7%、バズがついた記事の約75%を占めている。

一方で、1万以上バズのつく記事は、年間で約3500本。1日10本余り生まれている。しかし、記事全体から見れば0.002%しかなく、かなりの希少度だ。広報活動として仕掛けて得たバズならば、最高レベルの成功といえる。

1000バズ以上の記事は年間11万本ほど生産されており、1日300ある。そして、その1割は前述のヤフーだ。これも希少度は低いように思えるかもしれないが、記事全体の約0.07%しかなく、成功させれば相当の成功だ。現在の数字から見える目安を下記の表に残しておく。活用していただきたい。

バズの希少度

バズ数 記事数に占める割合 評価
1万〜 0.002% 神レベル
5,000〜 0.008% 天使レベル
3,000〜 0.014% 最高レベル
1,000〜 0.07% 天才レベル
500〜 1.0% うまくいったレベル
300〜 1.2% よくやったレベル
100〜 3.7% GoodJobレベル
50〜 2.9% OKレベル
1〜49 14.7% 大丈夫レベル
0 75.3% ドンマイ

最後に

以上、私たちのチームの取り組みの一部を簡単にご紹介した。デジタル化の恩恵とは、つまるところ「見える化」であり、広報という職人的で人依存の分野にも、それは確実に及んできている。積極的にテクノロジーを投入して、評価すべき数字を取得し、利用しなければ広報上の課題解決がかなわない時代になってきた。

これからも機会があれば、このような取り組みを紹介し、広報・PR業界の発展の一助となればと考えている。

 

出典:経済広報