近年、スマートフォンの普及やWi-fi環境の充実によって動画視聴環境が良くなり、WEBメディアによる動画コンテンツの活用が増えている。国内最大のポータルサイトYahoo! JAPANでも、トップページに動画ニュースのタブを置いており、動画に対する期待度が伺える。

良質な動画であればサイトへの滞在時間も増え、新規ユーザー獲得やリピーターの獲得にも繋げられる。しかしながらオリジナル動画の製作や運用は、想像以上に人手や手間、時間がかかるものである。

今回は、そんな動画メディア運用の先駆けとして、2015年6月から「MINE」を運用スタートした3ミニッツの取締役副社長で当研究所でも外部フェローを務める細川潤氏に、良質な動画コンテンツ作りについて話を聞いた。

写真:細川 潤(株式会社3ミニッツ 取締役副社長 COO/デジタルPR研究所 外部フェロー)

 

− まず、3ミニッツの代名詞「MINE」について教えてください。
MINEは2015年の6月からスタートした、ファッションをもっと楽しみたい大人の女性に贈る『ファッション動画マガジン』です。ファッション、コーディネート、メイク、ヘア、ライフスタイル、DIYなどの女性向けトレンド情報をデイリーで更新しています。ブラウザはもちろんアプリやSNSでも記事を配信しています。

− 近年、動画メディア戦国時代かと思いますが、アクセス数は?
動画自体のアクセス数は伸びています。従来のニュース記事のようにSEO対策でアクセス数を稼ぐのではなく、SNS 上での動画シェアによるアクセス増を狙っています。また、単純にアプリのダウンロードも伸びています。アプリの方が視聴環境は良いので、最終的にはアプリに誘導したいと思っています。

− 差別化できている部分は?
オリジナルの動画コンテンツについては、質にはこだわりをもって制作しています。ターゲットのインサイトをより明確に捉えてコンテンツの幅を増やすことで、さらに差別化できると考えています。我々は2015年から走り出していることもあり、早期にたくさんの知見を溜められたという点で大きなアドバンテージがあります。


洗練されたWebデザインのMINE

 

■動画で「新たな自分を発見する」

− ターゲットというのは具体的に?
MINEでは、首都圏在住の27~32歳の女性をコアターゲットとしています。この世代は、仕事やプライベートにおいて、大きな変化が起こりやすい時期を迎えています。大学卒業後、仕事も1人前にこなせるようになり忙しさが増してくることで、大学時代の友人や会社の同期との接触が少なくなる傾向があります。

同時に、転職や結婚など、ライフステージの大きな変化が訪れやすいタイミングでもあります。必然的に彼女たちは自分と向き合う時間が多くなり、その結果、ファッションやメイク、大げさにいうと人生についても、「自分はどうしたいのか」とじっくり考えるのではないでしょうか。そんな時にMINEにきていただいて、スタイル溢れるコンテンツに触れることで、新たな自分を発見していただくことを目的にしています。

− 時間帯としては、いつ頃見られているのでしょうか?
夜8時~12時ごろの視聴が圧倒的に多いですね。

− 昼間はあまり見られないのですか?
もちろん通勤の時間帯や昼休みにも見られますよ。ただ、夜の方が割合としては多いです。これは昼間に見たくないのではなくて、自宅のWi-Fi環境でパケットやスピードを気にせずに楽しみたい方が多いからだろう、と分析しています。なので5Gになったらその視聴時間帯の波は変わるのではないかと思います。

− なるほど。では人気のジャンルは?
ファッションはもちろん人気があります。それ以外だとメイク、セルフメディケーションなどのハウツーものが人気です。また、全ての映像は完成度にこだわって撮影・編集するようにしています。クリエイティブをパターン化してたくさんの動画を作るという考え方もありますが、我々はオリジナリティを重視した動画制作をしています。

− それはどうしてでしょうか?
単純に、そのほうが視聴者に好まれるからです。
タイアップ広告であっても、視聴者に好まれるものであれば結果が出やすいですよ。例えば、海外のラグジュアリーブランドの世界観を表現して作り込んだタイアップ動画広告では、再生回数・エンゲージメントが伸びますね。ブランドのターゲットと読者層がぴったり合致したときは大きく結果に現れます。ブランディングをしっかりして、製品・サービスのターゲット層を明確にして、ぴったりフィットさせるのが大事かなと思います。

 

■クリエイティブの質とエンゲージメントを重視

− 2016年末には一部のキュレーションメディアによる低質なコンテンツの乱造問題が明らかになりました。
我々のようにコンテンツを作り込んできたメディアにとってはむしろ追い風だと感じています。

− 我々の調査でも、大手マスメディアなどの「信頼性のあるニュース」を掲載しているサイトへのアクセスが増えています。
やはり雑誌をはじめとする大手メディアのコンテンツ制作力はすごいですよね。我々も今は雑誌の読者層をターゲットにしています。これは「完成度の高いクリエイティブ」を愉しんでいる人たちに喜んでもらえるコンテンツを作らないとアクセスを集められないと考えているからです。そのような理由もあり、編集長は紙媒体出身の方にお願いしています。

ただ最近は雑誌自体も動画に力を入れてきていますよね。そうなると我々もより高品質なコンテンツを求められてくるので、今は1記事あたりの制作コストを上げている状況です。マネタイズとのバランスが難しいですが、我々には経験があるのでその辺はきちんと把握しているつもりです。

− デジタルPR研究所では20~40代女性のメディア接触状況を調査したことがありますが、生活環境やライフステージによって接触状況はまったく違うことが分かりました。ターゲットの振れ幅が大きいこともあり、マネタイズしていくのは相当大変ではないですか?
まさにそこはすごく考えているところです。あまりターゲットを広げすぎると、万人受けを狙ってメッセージ性が薄まってしまいます。なのでターゲットはある程度絞り込んで「コミュニティ」を形成することを意識しています。その後、リアルイベントを実施したり、SNSでコミュニケーションを取るようにして、広さ(リーチ)が出しにくい分、深さ(エンゲージメント)に注目してコミュニケーションを図っています。

■SNS運用で重要なのは継続性と個性

− SNS運用についてはどう工夫していますか?
SNS運用についてはどこもやることは一緒だと思っていて、それをどれだけやり続けられる体制を構築できるかがポイントだと思います。特に読者とのコミュニケーションをとることが大事なので、現在は4名体制で運営しています。コメントが来たらコメントを返す。シンプルですがこれができないと伸びないと思います。また、誰が運用するかによって数字や反応が変わるんですよね。個人の色が出ていて面白いです。

− 最近 Facebook の個人情報乱用が問題になったり、結果としてルールやアルゴリズムに変更が加えられたりしていますが、その影響は出ていますか?
そこまでありませんが、表示ロジックの変更は影響が大きいと思っています。GDPR施行後にどのような影響があるのかも見ていかないといけないと思います。具体的な対策としては、少なくとも現在は Facebook ではパブリッシャーの投稿の露出は、抑制されているように思います。

*GDPR:EU一般データ保護規則として、欧州連合(EU)および欧州経済領域(EEA)内のすべての個人情報を保護強化するために2018年5月25日に施行された法律

 

■「型にはめないクリエイティブ」を推進

− 今後の方向性は?
アプリにユーザーをためていくのが最優先です。SNSプラットフォームでの活動も重要だと思いますが、プラットフォームで縛り付けすぎると良くない。本質的に自分たちの場所に集めるのが理想的です。

− 4Gから5Gになることで、動画サイトもいろいろ変わると思います。
VR・ARが流行る可能性もありますよね。ファッションショーの疑似体験とか、ARで金額などを表示してそのまま購入できるとか。また圧倒的に視聴環境が良くなりますので、ほとんどが動画コンテンツになるのではないでしょうか。ただそうなったときに、数と質、あとはクリエイティブの幅が重要になるのかなと思います。

− 大量に動画を安く作るために、細かくルールを決めて、誰にでも一定品質の動画が作れる環境を整える流れもありますが?
数をこなすことで一人ひとりの質とスピードは上がると考えているので、あまり型にははめないようにしています。それぞれが試行錯誤することで、制作に関する引き出しを増やすようにできればと思っています。時間はかかりますが、結果的にはこの方法がベターだと我々は考えています。

− デジタルPR研究所も、MINEに負けないように最先端な取り組みをしていきたいと考えていますので、今後ともぜひご協力をいただければと思っています。今日はありがとうございました。
ありがとうございました。