プラップジャパンでは、独自分析ツール「Buzz News Analyzer」を使い、国内の主要ネットメディア500媒体の全記事についてバズ数(Facebookのいいね!およびシェア、Twitterのツイートおよびリツイート)を常時観測している。今回は、2018年度(2018年4月~2019年3月)にバズを生んだ記事を調査し、その傾向を分析する。
◆2018年度にバズを生んだ記事TOP15
2018年度は訃報が目立つ結果となった。西城秀樹さんの訃報を筆頭に、桂歌丸さん、さくらももこさんなど、有名人の訃報関連の記事やコメントが15件中8件と半数を占める。2018年度は平成最後の年であり、過去を振り返る風潮が高まっていたことが、訃報への反響が大きかった一因ではないかと考えられる。PRの観点からは、このランキングから以下3つの特徴に着目したい。
特徴1:Yahoo!ニュースの専門家コメント欄がバズの起点に
11位、15位はYahoo!ニュースのコメント欄がシェアされたものである。Yahoo!ニュースでは、一般人のコメントはシェアできないが、専門家による「オーサーコメント」についてはFacebook、Twitterにシェアすることができる。こうした専門家のコメントは、場合によってはニュース記事の本文と同等に拡散されることがあるため、自社の記事に限らず、競合や同じ業界の関連記事によくコメントする専門家については把握しておくのが望ましい。
特徴2:求められる災害対策情報
2018年度には大阪北部地震、西日本豪雨、北海道地震と多くの自然災害が発生し、TOP15にも4位、9位に災害関連のニュースがランクインしたほか、「北海道地震大停電:スマホのバッテリー節約テクと災害時スマホ利用法(Yahooニュース)」や「地震発生時にやるべきこと やってはいけないこと(BuzzFeed JAPAN)」といった緊急時のハウツー記事も1万5000を超えるバズを獲得していた。災害発生時には速報性の高いインターネットで情報を確認する人が多いが、大規模災害時には根拠のない情報やデマが飛び交うため、情報の真偽を確かめるのが難しい*。こうした中で、ポータルサイトや出版社、新聞社といった大手メディアからのニュースは「信頼できる情報」として需要が高いと思われる。
*参考:デマ情報の拡散メカニズム 災害時に拡散するデマの種類と特長(デジタルPR研究所)
特徴3:関心が高まっているジェンダー・セクシャリティ問題
8位は準強姦で起訴された男性が無罪判決を受けたニュースであった。2018年度中には、医学部の不正入試問題や、「LGBTには生産性がない」と主張する議員など、ジェンダーやセクシャリティに関するニュースが炎上し、多くのバズが集まった。そんな中で、企業のキャンペーンや広告表現についても厳しい目で見られるようになっており、発信に際しては誤解を生む表現を含んでいないか、細心の注意を払う必要がある。
◆2018年度にバズを生んだ企業記事TOP30
ここからは、企業が発信した情報、または企業が関係しているニュースの中で、多くのバズを獲得した記事の傾向を分析する。
関心を集めた話題:働き方に関するニュース
3位、9位に働き方に関するニュースがランクインした。働き方についてはジェンダーと同じく注目が集まっているテーマである。3位の記事「居眠りさせないオフィス開発へ まぶた監視→室温下げる(朝日新聞デジタル)」は、NECとダイキンがまぶたの開き具合から社員の眠気を検知して空調を調節し、眠気を抑えるシステムを共同開発しているというニュースだった。
企業側は生産性を高める研究の成果として発信したものの、「社員に休みをとらせず、監視して無理やり働かせるのか」とネガティブに受け止められ、炎上する結果となった。似たケースとして、顔認証により「笑顔でないと出勤登録できないシステム」を導入した企業も同様に炎上した。こちらは地方紙が地元企業に取材した記事だったが、記事がYahoo!ニュースに転載されたことで、全国規模で批判を集めることになった。
一方、「いいなぁ、バーチャル出社。リアルオフィスを捨てた会社が急成長中(GIZMODO)」、「スノーピークがデジタル時代に“キャンピングオフィス”を本気で提案する理由(WWD JAPAN)」など、社員の働きやすさについて先進的な取り組みを行っている企業のニュースは好意的に受け入れられ、多くのバズを獲得した。
ネット上では、強制感のある直接的な効率化が前面に出ると批判が集まりやすく、居心地の良さや楽しさが前面に出る間接的な効率化やイノベーション促進については賛同が集まる傾向となっている。いずれにしても「働き方」「ブラック企業」については、ポジティブにしろネガティブにしろ、企業の規模や知名度に関わらずバズが集まりやすいテーマである。
プラットフォーム比較:FacebookとTwitter、企業ニュースがバズるSNSはどちらか
上記TOP30にランクインしたニュースについては、Twitterのバズ数がFacebookでのバズ数を上回っているものが27件と、同じニュースであってもTwitterの方が多くのバズを獲得する傾向にある。
さらに比較するため、2017年度と2018年度の企業記事TOP100 について、SNS別にバズ数を調査した。すると、Twitterでのバズ数は95万から110万と1年間で15%増えているのに対し、Facebookでは64万から36万とほぼ半減している。Facebookの拡散力は大きく低下しており、バズの主戦場となっているのはTwitterであるといえる。
企業記事TOP100をもとに、それぞれのSNSと相性の良いサイトを大別すると、FacebookではYahoo!ニュースや新聞社・通信社、業界ニュースなど、比較的専門性が高く硬派なサイトの記事が多くのバズを獲得しているのに対し、Twitterではlivedoor NEWSやファッション、サブカルチャー、芸能ニュースなど、若い層に人気が高く、画像が充実しているサイトへのバズが多かった。
媒体比較:Twitterに強い「livedoor NEWS」の影響力
次に、2017年度・2018年度のバズ記事TOP100 のデータをもとに、トップ100にランクインした記事が多かったニュースサイトを調べた。
ポータルサイトとしてはlivedoor NEWSとYahoo!ニュースが、ファッション・カルチャー系ニュースとしてはFASHION PRESSとWWDが強い拡散力を持っていることが分かる。サイトの規模としてはYahoo!ニュースの方が圧倒的に大きいにも関わらず、なぜlivedoor NEWSがYahoo!ニュースを上回っているのだろうか。
Yahoo!ニュースとlivedoor NEWSの比較
そこで、Yahoo!ニュースとlivedoor NEWSについて、2018年度の全記事を対象に比較を行った。
バズ記事数(一件以上バズの付いた記事の数)、獲得バズ総数(全記事に付いたバズの合計)についてはYahoo!ニュースが圧倒的にlivedoor NEWSを上回っているが、獲得バズ総数をバズ記事数で割った「平均バズ数」については拮抗している。
この要因と思われるのが、SNSにおける公式アカウントのフォロワー数である。Facebookでは両者のフォロワー数はほぼ同等だが、Twitterではlivedoor NEWSのフォロワーが30万人多い。拡散力の高いTwitterで多くのフォロワーを持っていることがバズの付きやすさに繋がっているのではないかと考えられる。規模ではYahoo!ニュースが他サイトを圧倒しているが、拡散という面ではlivedoor NEWSの影響力も非常に高いといえる。
TVや新聞などの既存メディアも、Webで話題になっている現象をもとにニュースを報道することが多くなってきている。企業においても、施策を話題化するため、また炎上を避けるためには、どの媒体でどんな記事がバズを生んでいるかを知り、広報戦略に活かしていくことが不可欠である。